☆ 《御宿K》とコンパニオンEちゃん ☆

十数年間、ホテルMで続いていた取引先の新年会が

今年から《御宿K》になった。

ホテルMが銀行管理になり仕事の発注先が替わったことによる。

宴会から2次会へ引き続き参加のコンパニオンのEちゃんが横に座った。

20代半ばか後半だろうか、

短大を卒業し実家にUターンしたものの、

今は夜職のアルバイトだと言う。

最近フェイスブックを始めたらしい。

ブログは以前から書いていたが、

しかし、どうもなじめないと言う。


ブログならともかく、

ああいうサイトにプライベートなことを書く人ってどう思います?」


「ンー、難しいね、いくつかのパターンがあるんじゃない、

ひとつは“どこへ行って何を食べてきました”みたいな

いわば絵日記のようなもの、

殆どがこれだと思う。

それと専門的な情報や知識を提供してくれるもの、

これは有益で社会貢献度が高いと思う。

それと君の言うように、ブログになら書けるけど、ってやつ」


「そう、子育て日記とか、それと恋人との馴れ初めや

家庭内の出来事なんかを書いているじゃないですか、

私も似たようなことをブログには書いてるけど、

あそこには書けないですよ」


「ブログは訪れるひとは限られるけど、

フェイスブックは不特定のより多くのひとに、

半ば強制的に読ませることができるよね」


「読んでもらう、と読ませるの違い?」


ここまでの会話で頭の回転が速い子であることがわかった。


「って言うより、そう言う人達って本当は淋しいんじゃないかと思う、

現実の社会でいろいろなことを、心を開いて話合えるひとがいれば、

わざわざサイトで“報告”する必要はないんじゃない」


「もし、自分の彼がそういうことを書いてて、

女性の“友達”が沢山いたら引いちゃうと思う、

そういえば、私に勧めてくれたひともそうだけど、

そういう人達ってやたら“友達”が多いんですよね、

その数を自慢してるの、見栄なんですか?」


「誰にでも程度の差こそあれ自己顕示欲ってあるじゃない、

逆に他人の生活を覗きたいっていう願望も、

それのなせるワザかな?

私には友達が沢山いるんだと公表することで自分を安心させる、

少し危険なこともあるけれどね,

実際トラブルもあるらしい。

このまえネットで見たんだけれどフェイスブックの利用者の

40パーセント近くが内容もそうだけれど

“いいね”と“友達申請”を、鬱陶しい、

不快だと感じているという統計があったっけ、

傑作なのは「そんなこと、きいてねえよ」とつぶやきながら

“いいね”をポチッとするんだって」


「その気持、わかる」


「ネットを通じて多くの人と情報の交換などはできるようになった、

でも心が通じる本当の友達がいかに少ないかという

現実の社会を物語っているんじゃない」


「Sさんは[[ブログ]]って書いているんですか?」


「うん、テーマ別にいくつかのサイトで書いている」


「へーえ、どんな事を書いているんですか?」


「ひとつは仕事に関する話、ひとつはかなりプライベートな男と女の話、

だけど、これは書いてはいるけれど誰にでも読んでほしくないブログ」


「読んでほしくないのにどうして書いているんですか?」


「自分史というか、記録というか、

自分に起きたことを忘れないためにかな。

強いていえば自分が死んだ時に“ある人”に読んで欲しくて、

と言ったほうがいいかもね」


「へーえ、でも、たまたま知ってるひとがそれを読んだら?」


「匿名だから“ある”人以外は分からない」


「ちょっとミステリアス、あとは?」


「知っていると楽しいけれど、あまり人生に役にたたない(笑い)雑学や小噺」


トリビア?、もうひとつは?」


「自分もやっている、あるスポーツのことがメインのブログ、

かなりマイナーなスポーツなんで、まず見るひともいないけれど、

偶然見たという全く知らない人から

冊子化できないかというオファーがきてる、

でも実名ではないけれどモデルになっている女性の主人公がいるんで、

多くのひとが見るようになれば、差し障りがでるこも知れない、

それをどう表現するか悩んでいるところ」


「モデルって自分でしょ?」


「いや、自分にとって一番大切なひと」


「なんだ、奥さんなら別に構わないじゃないですか?」


「いや、カミサンではない」


「えっ、それって不倫の匂いがしますけど」


グラスの汗を拭き、水割りをつくり直していたEちゃんが、

その手を止めた。



「難しい話になっちゃったね、

Eちゃんは妻子のあるひとを好きになったことはある?」


「んー、ステキだなと思ったひとはいますヨ」


「男として勝手な言い分かもしれないけれど、

妻や夫がいるから、と言う理由で自分を一番理解してくれるひとを 

大切に思う、という感情を殺すことは不自然とは思わない?」


「難しいですねえ、

でも、それって普通、不倫とか浮気って言わないですか?

その女性って人妻ですか?」


「いや違う、

御互いの心を理解しなくても男女の関係にはなれるだろ、

それを不倫や浮気と言うんじゃないかな、

でも、人間として理解し合うということとは、

別のような気がする。

それと、お互いに失うものがあってはいけない

と言う条件はあるけれどね」


「どういうことですか?」


「Eちゃんがもう少し歳をとったらわかるかな」


「大人の関係って言うんですか?

じゃあ、もしSさんの奥さんに好きなひとができたとしたら?」


「多分、」


「おーい、Eちゃーん、こっちこいやー」

「はーい、 あとでブログのURLを教えて下さい」

普段は寡黙なのだが、酒が入ると、明るく?饒舌になる、

O社長がEちゃんをご指名である。


《御宿K》の宴は続く。