☆クレー射撃上達虎の巻  《  壁を超えるために!》



 そよぐ風が肌に心地良い季節である。


全国大会出場が夢というAさんとクラブハウスで軽い昼食の合間。



「今日は、全国大会出場という、夢を、夢で終わらせないための

とても重要なことを話そう、そのための課題といってもいい」





「[[スイング]]もスムーズに軽くできるようになったし、

スコアも80点台をキープできるようになった、

しかし、安定して(試合で)90点以上を撃てるようになるには、

この辺がひとつの壁になるはずだ、多くの射手はここで足踏みをする、

Bクラスの(人数の)多さが、それを物語っている。

それを超える方法を話そう」


「ウン、ウン?」


「簡単にいうと、いままでの自由自在に振れる軽いスイング

“重い”スイングにして確実性と安定性を増すこと、

少し、勇気が要るかもしれないけれどね。


今は正面を向いた銃に対し、足と体は右45度を向いている筈、

この角度を基本的角度、基角(右撃ち射手の)という。

これはトラップ射撃の基本となる構え方だ、

スムーズで軽いスイングが可能になる。

初心者から中級者までは、これに勝る射法はないといえる。


しかしコンスタントに80点を撃てるようになると、

唯一の欠点が出てくる。


それはスイングの軽さゆえ、確実性、安定性に欠けるということ、

具体的にいうとスコアのバラツキなどもこれに起因する。


しかし、このレベルになると、

“たまに”90点越えや、満点を撃てるようになってくる。

“たまに”を“常に”に、するにはどうすれば良いのか?


上級者向けのスイング”に切替なければならない。


そこで、基本のスタンスから、足の向きを約30度左に戻す、

そこで足はそのままで上体だけを

もとの右45度の位置までまで戻す、

つまり基角を45度ではなく30度にする。



これで銃は正面を向いている。

この時、ひとつだけ気をつけることは、

基角を30度以下にとらないこと」


ウェイトレスにメモ用紙をもらいイラストを書きながら説明した。


実際にやってみるとわかるが、

はじめは、かなり無理な、違和感感をじる筈である。


しかしトップシューターと言われる人達は、

多少の変形はあってもこの基本から逸脱していない。


彼らはこの“クレー射撃の基礎”を習得したうえで自分の長所を生かし、

短所を補う研究をしている。

それが基本の応用であり、テクニックというものである。


 時折トップシューターのスタイルだけを真似ている人がいるが、

何故そのフォームなのかを理解しないと、

所詮、物真似であり、我流の域をでない。



世界のトップシューターといわれる、

イタリアのP・ジョバンニ選手は

右のクレーを確実にとるために、

45°から更に右回りに足を向けているが、

上体は45°をキープしている。



ある射場で、アメリカのトップシューター、B・ランスの

フォームを真似ているシューターがいた。


アメリカ型とも称される、足を大きく開き、

膝を深く曲げるその特異なフォームは

それを見慣れない日本のシューターからは失笑を買うに違いない。


しかしベード・ランスは

クレーを下から捉えると言う合理的な狙い方をしつつ、

このフォームで体の回転軸がブレない。


人並み外れた強靭な下半身のなせる技である。



この形だけを模倣しても結果は推して知るべしである。



今のスイングでも、

シーズン中に何度かは、満射あるいは、

90点を撃つAクラスにはなれるかもしれない、

しかし、いつでも、どの射場でも、

90点を撃てるAクラスになるためには、

この“重いスイング”が不可欠になる。



「何故、いままで教えてくれなかったの?」


「この技法を取り入れるためには、それなりに“基礎技術”が不可欠だから、

それが習得できていない初心者や中級以下の射手には、

その先の上達を妨げることはあってもプラスになることがないからだ。


空手の入門者初級者に、いきなり組手や、

試し割りを教えたらどうなる?」 

「ケガする」


「もちろんこの技法だけをとりいれて、

俄に試合で90点以上をキープできるものではない」


「じゃあ、どうすれば???」


基礎体力や精神力の強化、試合の駆け引き、そのほか、細かい努力の積み重ねもクレー射撃の上達には必要」


「うん、体力は自信がある」


「はじめは辛いかもしれないが、

この技法を体得すれば、壁を越えられる筈だ,


ただし、この技法をマスターしても絶対に

初心者や中級以下の射手に教えてはいけない」


「ハイ!」



「いきなり90点とはいかなくても、

スコアのバラツキがなくなることに気付く筈だよ」




本来であれば、

全クレが、全ての射手のレベルアップのために各人の技量に合わせ、

段階的な指導をしなければならないと思っている。

でなければ、世界レベルに比肩するには(少なくとも男子トラップが)

道遠しと言わなければならない。


少数ではあるが、この射撃理論を認識し、実践している射手もいる、

だが、それを“教えることのできる”者が圧倒的に少ない。



 会員を募ることと大会の開催に血道をあげているのが実情である。


おまけに内部の紛争は未だに解決の糸口さえ見えない。


射手のレベルアップという、

最も大切な命題は置き去りにされたままである。


また、現在はシーズンを通じて一試合でも90点を記録すれば、

Aクラスと認定されるが、

参加した試合数の内、一定の割合以上で90点を記録して、

Aクラスと認定すべきではないか?



 射撃に対する秀でた感性、

そして正しい射撃理論に基く射法が一体になったとき、

Aクラス入りのみならず、

日本のトップシューターも夢ではない。