クレー射撃上達虎の巻  《 クレーの左側を撃ってはいけない!》





「今日のクレーは硬いんじゃないか、割れが悪いなァ」

クラブハウスに戻ってくるなり、

M市からやってきた、B君が冗談をいっている。

射撃を始めたころからの付き合いである。

最近は80点前半のアベレージである。


ストレートのクレーは左側を撃ってはいけないことは知ってるかな?」

「そんな芸当できません」


「弾の何粒かが当たっている筈なのに、クレーは割れずに

向きだけが変わる、という経験はないかな」


「あるある、パターンが悪いとか、当たった弾の数が足りないとか」


「ウン、それもあるけれど、

気をつけて見ると、殆どが右側に反れている筈だ」


「ウ〜ン、そういえば…」


「今のレベルになったら、これは知っておいた方がいい」



私はテーブルの上で“射手から見たクレー”ではなく、

上空からみたクレーの絵をかきはじめた。



「飛んでいるクレーは右回り(時計回り)に回転している、

これを縦に半分に切ってみよう、

すると左半分は弾Aから逃げるように回転している、

逆に右半分は弾Bに向かって回転しているのがわかるだろ」


「なるほど〜」



「例えはあまりよくないが、

左半分は前を走っている車に弾が追突するようなもの、

右半分は前から走ってくる車に正面衝突するようなもの、

どちらが(相手の車=クレーの)ダメージが大きい?」


「モチロン正面衝突」



「割れずに落下したクレーを拾い集めてみると

圧倒的に左側に被弾したものが多いというデータがある」


「そうかァ、当たった弾の数が少ないとか、

パターンのせいかと思っていた、目から鱗だわ

でも、なんでもっと早く教えてくれなかった?」


「初心者にこれを教えたら、右側を“狙って”撃つだろう、

そうすれば間違いなく“引き止まり”をおこす、

その前に、スタンス肩付け頬付け、目の使い方、スウィングなどの

基本的な動作を習得しなければならない」


「前に言っていた空手の入門者に、いきなり組手や試割りを

教えるようなモンか」



「その通り、しかし、いくら基本ができたからとは言え、

飛んでゆく小さなクレーの右半分を

短時間で正確に狙うなんてことは不可能に近い、

つまり、“感覚的に右寄りを”撃て、と表現したほうが

的を射ているかもしれない」


「一枚の差で泣かないためにってヤツか」


「ただし言っておくけれど、これを実践し始めると、

一時的に必ずスコアは下がる、でもこれをマスターすると

余裕をもってストレートをとれるようになる、

そして“教え魔”がよく言う“ベテランほどストレートを外すモンダ”

ということがいかにいい加減な言葉かが解る」


「うん、オレも結構聞かされたよ」



「しかし更に厄介なことがある、クレーは自身が右回転することによって

絶えず右にカーブしながら飛んでいく、


これに前後左右からの風が吹くとクレーの飛ぶ方向によって

複雑な動きをするが、これは次の機会に話そう」



射撃の上達とは単に経験を重ねたり、弾数を消費するだけではない。

外さない要素”をひとつひとつ積み重ねることが必要である。

それを体得するのが練習にほかならない。