モテる男性必見 ! 《男の優しさ》


 数年程前のことである。

B君は、友人のF君とスナックで飲んでいた。

ほど良く酔いが回ったF君が携帯電話をとりだし、

「言おうか言うまいか迷ったんだが、

このまえ、ブログに載せようとAレストランに行って

料理や店内の写真を撮っていたら、偶然T子さんがオマエじゃない男と

食事をしているところが写っていた、

彼女はオレに気付いていなかったが」


見ると、T子さんと思しき女性が見知らぬ男性と食事をしながら談笑している。


B君とT子さんは一年数ケ月の交際期間を経て、

当時婚約中である。


長すぎる、と言う人もいるが、

これから過ごすであろう期間を考えれば、

相手を理解するには、決して長すぎる時間ではない。


F君も無粋といえなくもないが、

親友のために看過できない気持もわからないでもない。

内心穏やかでないであろうB君の心中は想像に難くない。


『饒舌な愛は日向の氷』と言う諺がある。


どちらかと言えばB君は寡黙である。

おまけに“言い訳”や“弁解”を良しとしない、

それを彼の“誠実さ”と評価する人は多いが、

その一方で、誤解されることもある。

それが少しだけ世間を狭くしているように見える。

世間で言うところの“損な性格”というヤツである。

はたで見ていて歯がゆいことも一度や二度ではない。


もっともT子さんは、その誠実さに惹かれたであろうことは想像に難くない。


若しB君が(私も含め)“並み”の男であったなら、その場から電話で

「他に付き合っている男がいるの?」

と、T子さんに問い糺していたかも知れない。

“動かぬ証拠の画像“を添えて。


しかし、B君のその時の態度は潔いものであった。


F君に写真の削除を頼むと、

この“事実”を肚(はら)に収めたのである、

つまり彼女を信頼したのだ。




ホームランを打った打者がホームイン後

皆に迎えられて、頭を叩かれ、尻を蹴られているシーンはお馴染みである。


前後の脈絡を断って、その一コマだけの写真をみれば、

紛れも無く集団暴行である。


しかし状況がわかれば、少々手荒いが

心のこもった祝福である。


一コマの写真は“叩く”“蹴る”という

“事実”を伝えてはいるが、

“祝福”という“真実”を伝えてはいない。


もしB君が、その場でT子さんと件の男性の関係を糺していたら、

その瞬間から二人の仲は間違いなく終焉に向かっていた筈である。


人並以上の感性を持つT子さんには、

“私は信頼されていない”という心が芽生え、

それは決して後戻りすることなく、

確実に成長していくからである。


B君は、それを理解していたのだ。



数日後、B君はT子さんから

「このまえ高校時代の同級生のM君にバッタリ会ったのよ、

懐かしくてAレストランで一緒にお昼を食べたんだけど、

M君に子供ができたとか、E先生が亡くなったとか、

Aさんが双子を生んだとか話がはずんじゃった」

と聞かされた。


この顛末を聞かせてくれた時の

B君の爽やかな笑顔が印象的であった。


二人の間は、

お互いに“信頼”という絆で結ばれていたのである。



一言を肚に収めた、

B君の心の広さ“男の優しさ”ではある。


ほどなく二人はゴールインしたことは言うまでもない。