おじさんバンドの悩み!?





 工務店を営む高校時代の後輩T君が《おじさんバンド》をやっている。

自称《ベンチャーズコピ-バンド》

周りは単なる《いなかのおじさんバンド》(おっと、失礼)


齢を重ね、少し時間に余裕ができてきたので、

2,3年ほど前から始めたようだ。


カミサンはキーボード担当。


そのカミサンが、

この頃ステージにも慣れ客席の様子を見る余裕がでてきたと言う。

つまり、会場の空気が読めるようになってきたらしい。

そこで、あることに気が付いたそうな。


他のバンドの時は、

聞いている人が、足で、あるいは膝に置いた手でリズムをとっている。

ところがダンナ達の演奏になるとそれがないというのだ。

先日も会社の新年会の余興で演奏したところ、

皆“礼儀正しく、静かに”聴いている。




それがステージの上から“観察”できるようになってきたらしい。

どうしてなんだろう、

その“診断?”をしてほしいとのことである。


おじさんバンドの先輩でもあるし、

無下に断るわけにもいくまい。

その時のビデオを見せてもらうと、

なるほど皆“清聴”している。

なかにはチョット退屈そうなヤツも。



もっとも、皆がオールディーズが好きとは限らないだろうが。




とりわけリードギターのダンナのテクニックが稚拙なわけではない。

ギターはフェンダーとモズライト

アンプはJC120とツインリバーブ

オジサンバンドの定番である。

(最近ではアリアのベンチャーズモデルも多いが)



先ず、他のメンバーとの関係を聞いてみた。

一人は彼の会社の部下、二人は彼の会社に物品を納入している業者。


ウ〜ン!

よくある編成ではある。


ひょっとすると、この辺に原因ありか?




どちらかと言えば昔から彼は自己顕示欲が強いほうではある、

もっともバンドをやるヤツなんてぇのは、

多かれ少なかれ、その傾向があるのだが。



彼にとってドラム、ベース、サイドギター

リードギターを盛り上げるものと捉えているフシがある。


楽器を演奏する時、テンポ、リズム感は人によって様々だ。

その日の体調によっても変わる。

同じ曲をパート別に演奏し、その時間を計ってみると、

同じだったなんてのは、まずありえない。

そのバラバラの四人が一つに纏まった時に素晴らしい演奏になる。


これがオーケストラだと至難の業だろう、

指揮者が必要たる所以である。



では指揮者のいない四人がまとまるにはどうすればよいのか?



リードギターに他の三人が合わせようとすると、

これはいけない。


まずドラムとベースがリズムを刻み、

次いでベースラインにリードギターがかぶさるようにメロを弾く、

更にリードギターの音の合間をサイドギター(キーボード)が埋める。

この時、グルーブ、所謂“ノリ”が生まれる。

そして、聴衆は自らの身体でリズムをとる。


つまり、先ずリードギターありき、ではないのだ。

リズムがメロディーに合わせてはいけない。

まして、アドリブが入る場合はなおさらである。

そうでないと、ノッテいるのはステージの上のリードギターだけ、てなことになる。


落語『寝床』の大家さんのノリである。



四人で、お互い意見を言い合い、

時には言い争いながら曲をまとめあげていく。




私がバンドをはじめた頃、先輩に言われたことは、


「ライブってぇのは、音楽を聞かせるんじゃない、

聴く人と音楽を共有すること、そのために、

まずメンバーが一つの“塊”になること」


“診断結果”を教えると、しばし思案顔。

思い当たるフシがあるのだろう。


「でも、自宅でカラオケをバックに練習している時は

ピッタリ合うのだけれど」


当たり前である、

カラオケのバックは、

リードギターに合わせてくれる優しさを持ってはいない。

「ダンナが無意識に(否応なく)バックに合わせているのさ」




ベンチャーズの“アパッチ”は良い練習曲かも知れない。

緩やかな全体のテンポをおさえつつ、

あるフレーズでリードのメロが遅れて(先行して)入り

途中ツジツマを合わせ、

フレーズの終わりでピタッと四人が塊る。

少し難しいが、

この呼吸が解ると、スローなこの曲が結構ノル。

コツは緩い曲の場合、次の音に移るギリギリまで、

フレットから指を離さないこと。


練習場所のひとつに、行きつけのバイク屋さんがあるが、

この曲をリアルタイムで聴いたことのない

所謂“ヘビメタ世代”の若いライダーが

「結構、いい曲っすね」と宣った。


因みに我々のバンドのリードギターは、

大したモノではないし、時折トチる、(威張ってどーする)

我々は“アレンジ”と呼んでいるのだが…



先日、某放送局の人気パーソナリティーが司会をしてくれたステージで

「若人には出せないノリですねぇ」と言われたが、

これは演奏を褒められたのか否かは定かではない。


ただ数バンドの中で我々だけが“アンコール”の声をいただいたのは

嬉しいかぎりであった。


言い訳をさせてもらえれば、

時間の関係で前のバンドのセッティングのままだったので、

我々好みの音ではなかった(下手なヤツにかぎってこういう言い訳が上手い)








また、レパートリーの少なさをカバーするために、

MCに時間を割くが、これが功を奏し

『ベストMC賞』を頂いたことがある(これはバンドとして喜ぶべきか???)



最後に、以上のアドバイスをダンナには、

言わないよう付け加えた。


自分がベストと思っている状態を、

周り、況や“カミサンごとき”に指摘されるのは、

彼のプライドが傷付くかも知れない。



心配はいらない、何度か自分のビデオを見、そして

もう少し場数を踏めば、自ずと“ノリ”は身に付いてくる。





次のビデオが楽しみではある。