☆ クレー射撃上達 虎の巻 §10 《 神経の疲労 》
奇妙な手紙である。
文言を書いた紙、つまり便箋が入っていない。
写真が一枚同封されているだけである。
Aさん宅の駐車場に何度か射場で見たことのある白のRV車が止まっている。
裏には“早朝”と書いてある。
意図は不明。
これをAさんに見せれば、そのワケがわかるのだろうか?
とりあえずAさん宅へと車を走らせる。
そろそろ北国の射撃シーズンが終わる。
射撃をはじめて2年ほどになるAさんとK射場で撃ち納めである。
夕食はいつもの居酒屋。
とりあえずAさんはワイン、私はビール。
「今日は射撃の時の神経の疲労の話をしよう、
これは特に言っておきたいことのひとつだ」
クレー射撃はメンタルなスポーツと言われるように、
肉体よりも寧ろ頭や神経を使う.
女性が、体力では圧倒的に優位な男性射手に互して
好成績をだせる所以である。
しかし、厄介なのは神経の疲労である。
撃とうと思えば3ラウンドでも4ラウンドでも続けて撃てる。
何故ならば、本人に全く自覚症状が無いからである。
そこで、何でもないクレーをミスする、
こんなハズはない、と続けて1ラウンド、
更にスコアが下がる、おかしいと、もう1ラウンド。
いわば、悪循環になる。
射撃の上達にとって、思わぬ落とし穴ではある。
従って練習の時は1ラウンド撃ったら1ラウンド休むこと、
2ラウンド撃ったら、できれば2ラウンド休むようにするのがベスト。
試合では自由に休憩時間をとれないから十分に気をつけないと、
特に2日間で、200ケを撃つ場合は、
肉体の疲労が加わるのでより注意が必要だ。
「ウン、練習の時なんかスコアが良くないとつい、もっと撃たなければと、
ラウンドを重ねることがあるけれど逆効果なんだね」
「調子が悪いときは“もっと撃つことよりも、何故当たらないか”が重要、
そんなときはさっさと切り上げ、ウマイものでも食べながら
それを考えたほうが良い!」
「今日みたいに?」
「そうだね」
Aさんの屈託のない笑顔がポケットの写真に伸ばしかけた手を押し戻した。