ミーチャンとボッソリーノ その2

 


新しい御主人が見つかったときに、安心して引き取ってもらうため、

ボッソリーノを健康診断のため獣医師のところにつれていくことにした。

“人間ドック”いや“キャットドック?”

だが、その結果にAさんは困惑した。


なんとエイズキャリアだというのだ。

日々の暮らしぶりは普通の猫と全く変わらない。

勿論、人間にはうつるものではない、

猫同志でも流血のケンカや交尾をしなければ感染の恐れはない。

ただし、完全な室内飼育が条件となる。


問題は、それを承知で家族として、迎え入れてくれる里親がいるだろうか。

若し、新しい御主人が見つからなかったら………。



 ミーチャンとボッソリーノの相性の悪さは如何ともし難い。

2階のボッソリーノの様子を見に行った時、

うっかりミーチャンのいる居間のドアを閉め忘れてしまったことがあった。

その隙間からミーチャンが出て、階段に向かおうとした時、Aさんの大きな悲鳴。

驚いたミーチャンは“自室”に引き返し、こと無きを得たが、

ボッソリーノはカゴの中とはいえ、手を出すくらいの隙間はある、

お互い、爪をたてあうことにでもなったら大変である。


 しかし、幸運なことに、温かい家と、

毎日の御馳走がボッソリーノにプレゼントされる日がやってきた。


新しい御主人が見つかったのである。

推定年齢7歳の、それもエイズキャリアを承知で引き取ってくれるというのだ。

心優しい人に違いない。


その母娘はボッソリーノを見ると、笑みをたたえ、小学生と思しき女の子は、

愛おしそうにボッソリーノを抱いた。

新しい家族を心から喜んで迎えてくれたのである。


ボッソリーノは女の子の腕の中で、ゴロゴロと喉を鳴らし、力いっぱい甘えた。

「幸せにね、ボッソリーノ」



 ボッソリーノは幸せだった。

素晴らしい家族に囲まれ、おいしい食事を食べ、温かい布団で眠った。

窓の外は雪、でもそんな寒さなど嘘のよう。


しかし、ボッソリーノが新しい家族になって二週間ほど経ったとき、

嘔吐と下痢を繰り返した。

キャットフードが合わないのだろうか、風邪でもひいたのだろうか。

すこし、様子を見たが良くなる気配なない。

そしてAさんに驚くべき知らせが母親から届いた。


獣医さんに診てもらったらボッソリーノの命はあと数カ月」だと言うのである。

「なんで、せっかく素晴らしい家族と楽しく暮らせるようになったばかりなのに」

Aさんから、この知らせのメールがきたとき、イヤな状況が頭に浮かんだ。


「こんな重い病気だとは知らなかった、このネコを引き取って下さい

と、言われないだろうか?

あっても不思議はない話である。

しかしそれは杞憂であった。


そして、心優しい母親に対して、そんなことを考えた自分を恥じた。

母親は泣きながら悲しみをこらえていた。


そして小学生の女の子の言った言葉に衝撃を受けた。


「永く生きられない分、それまでの間、たくさん可愛がってあげる」



もし【天使】というものが存在するならば、この女の子がそうに違いない。

命の尊さを、生きることの素晴らしさを、この小学生の女の子は

充分すぎるほど知っているのだ。


【天使】は実在する。

この女の子の、命を愛し、慈しむ優しい心が【天使】そのものなのだ。

Aさんのメールが書かれた携帯電話の画面が滲んだ。

生きるんだ、ボッソリーノ!

この女の子のためにも絶対死ぬな!

この子のボッソリーノを思う優しい心が必ず奇跡を起こすことを信じて。


…fin…


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