“直感”

 




 私自身、超能力心霊現象には縁がない。

だが、ある事象や、ある人のこれから起こることを感じてしまう“直感”のようなものは

幾度か経験したことがある。


ただし、その結果を、問うて答えがでると言う類のものではない。

自分の意志に関わりなく、全く脈絡の無い状況で不意に訪れる。


その結果が現実のものになるまでは、

私自身懐疑的なのである。

何の根拠も裏付けもなく、そんなことが解るわけはない。


 最初は数十年前の、身内の“望まない結果”であった。

気の迷いと振り切ろうとしたが、数ヵ月後現実となった。



 
 収賄容疑をかけられたある政治家の所在が不明になった時、

テレビ局の記者が自宅を訪れた際、映し出された玄関の

インターホンの映像を見た刹那、

件の政治家は“家の中にいる”と感じた。

後日その時間に、その政治家の自宅に別の政治家が電話をかけ、

話をしていたとの証言があった。




 知り合いの会社に、乞われて銀行マンだった男が入社してきた。

笑みを絶やさない、腰の低い、物腰柔らかく、頭のきれる男であった。

営業マンとして非の打ちどころがないようなタイプである。

誰一人、彼を悪く言う者はない。


あるパーティーでステージの上で笑顔で軽妙にマラカスを振る彼の姿を見た時、

「この男、必ず会社に仇をなす」


時間にして数百分の一秒だろうか、

彼の笑顔のなかに“極悪非道”と言う表情を感じ取ってしまったのである。


後日社長に、遠回しに気を付けるよう話をしたが一笑に付された。


数年後、業績は好調であった筈のこの会社は、

ある日、晴天の霹靂のごとく倒産した。

時を待たずして件の男は自分の会社を立ち上げた。



この“直感”のようなものは、

数年間訪れないこともあるし、短期間に何度か、感じることもある。



ある事柄や、人物の過去と現在のデータを分析すると、

これから起こりうる事を、ある程度予測することはできる。

しかし外れる可能性は常に0ではない。

“これから”に含まれる不確定要素は、

膨大なデータによる予測をいとも簡単に覆す。


だがこの“直感”は今まで外れたことがない。