ちょっと、 オカルト!真冬の怪談?



 一月の末か、二月の初めだったと記憶している。

友人からメールが入る。

「晩ゴハン、一諸にどう♪セッティングしておきますヨ」

一時間ほど車を走らせる。

彼女の家から歩いて1分程のところに小さなレストランがある。

そこで美味しいフレンチカレーや諸々の料理と、

彼女のチョイスしてくれた素敵なワインとチーズをいただきながらの会話。



シェフに私との“ツーショット”を撮らせ、

目の前に座っている私の携帯にそれを転送し「キャハハ」とはしゃいでいる。


楽しい時間の過ぎるのは瞬く間である。


 壁に掛けた上着のポケットを透して点滅している携帯電話のランプに気付いた。

マナーモードに設定しておいたため呼び出し音が消されていたのだ。

7時半過ぎの着信履歴、宴の佳境ではないか。



取引先からの明日早朝の打合せのメールである。

資料を揃えるための時間が必要だ。


シャワーを浴び

帰路についたのが午前二時半過ぎだったろうか。


この時間は車も殆ど走っていない。

人口150万人を超えるS市とはいえ、南の郊外から十数分も走れば、

民家も無い、両側を山に挟まれた、うねるような道が一本だけである。

ほどなく、ゴルフ場入口の看板が闇に照らし出される。

前方には、すれ違う車も無い。

灯りはといえば、自分の車のヘッドライトのみである。


CDのボリュームを少し大きくする。

その時、正面に灯りが見えた、車のヘッドライトである。

こんな時、対向車の存在は思わずホッとした気持ちになる。


だが、近付くにつれて、それが“ひとつ”であることに気付いた。

ははァ、“球切れの片目”だな。

しかし、それならば“片目”はセンターライン寄りか路肩側に偏っている筈である。

それが車線の真ん中を進んでくる、もし助手席側のライトだとすれば、

私の車線に車体がはみ出ていることになる。

スピードを緩め、すれ違うのを待った。


その時、我が目を疑った。

なんと、オートバイである。

メーターの車外温度計を見るとマイナス15度、除雪されてはいるが、

道路はアイスバーン

私もオートバイに乗るが、この時間に、この寒さに、この場所で……。


正気の沙汰ではない。

しかし、それは見粉うことなくオートバイであった。


数分前、T霊園墓地に向かう道の入り口を通過したばかりだ。

「ひょっとして……」

 この時、数十年前のある出来事を思い出した。


この道をS湖まで行き、少し過ぎて右折すれば帰路であるが、

まっすぐに行くとT市に向かう、その途中に製紙会社の水力発電がある。

それを左手にみて、道路は緩い右カーブである。

時期は8月頃だったろうか、時刻は憶えていないが、とにかく夜である。


ゆっくりとハンドルを切ると、ヘッドライトに男女の後ろ姿が浮かんだ。

車道側が女性、

透けたブルーのワンピースのようでもあるしネグリジェのようでもある。

素足のようにも見えた。

外側が男、

不思議なことに、男ということは解るのだが、身の丈や服装はわからない。


こんな時間にと思いながら追い抜く。


まてよ、周りは鬱蒼とした森、街灯ひとつ無い夜道、

車の灯りが通り過ぎれば漆黒の闇である。

こんなところを人が歩いている訳がない。


そうか、道路標識、あるいはそれらしい枝ぶりの木と見間違えたのだろう。


それを確かめるべく、意を決してその場所に戻ってみた。

だが、男女の姿は勿論、見間違えるようなモノは何も無い。


 数日後、市役所に勤める同級生に、このことを話すと、

興味深い話を聞かせてくれた。


かつて、この発電所のダムに身を投げた男女がいたという。

悲恋のはての心中か。


ところが、男は助けられて命をとりとめ、女性だけが天に召された。


フーン、あの時の情景と辻褄が合わなくもない。

しかし、このテの“ストーリー”は、ある事件に尾ひれが付き、やがてそれが

一人歩きするものが多い。

当時の私の“心の迷い”の産物だったのかもしれない。


 そんなことを思い出しながらバックミラーに目をやる。

若し、すれ違った筈のオートバイの灯りが映っていなかったらヤバイかも。


見ると、こちらの気持ちなど、そ知らぬように、

その灯りは次第に小さくなっていった。

まさしく、オートバイは“この世のモノ”ではあった。

『コケて、怪我するなよ』


CDのボリュームをまた少し大きくした。



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