花水樹とおいらん鰈。

 


友人が乗馬に凝りはじめた。

級審査とやらに合格した時のことである。

「ねぇ、御祝!」

「何がイイ?」

ブーツヘルメット♪」

私は“鉄の馬”すなわちバイクに乗る、

ライディングの際にはブーツとヘルメットは欠かせない。

バイク用のブーツはヘルメットよりも安価である。

「じゃぁ、ブーツ☆」

「ありがとう〜♪」


これが誤算であった。

ナント、パカパカ用のブーツ一足でバイク用のヘルメットが

二つと半分買えるじゃないのよ。

(勿論、ピンキリであるが)

「こらー、バイク屋!もっとヘルメットを安くしとかんかい!アホンダラ、ボケ、カス」


 副賞は料亭“花水樹”で食事と日本酒。

その店は、T市の比較的繁華な場所(今は往年の賑わいこそないが)にありながら、

ちょっと“隠れ家”的な小洒落た料理屋である。

美味しい料理もさることながら、

最近見ることが少なくなった“割烹着”が良く似合う美人ママのミキちゃんも

“花水樹”の看板である。


料理に惹かれる常連客に加え、

イロッペー(※注1文末参照)ミキママの美貌とキャラのファンも少なくない。


訪れる機会はそう多くはないのだが、その都度歓待してくれる、気のおけない

お気に入りの店である。

落ち着いた雰囲気と、ほのかに焚かれた香が客への心遣いを感じさせる。


 ウィークデー、それも少し早い時間なのでそれほど混んではいない。

入って右手の椅子席の個室を用意してくれていた。

二人で使うには少し贅沢な広さである。


 宮城の酒“浦霞”は私のお気に入りである。

彼女は当地の地酒“美苫”の槽口を注文。


サラダ、刺身、焼き物、揚げ物、etc

どの料理も目と舌を楽しませてくれる。

それにしても小さな体で良く食べる。

おまけに酒豪である。


箸の運び、食事の所作もソツが無い、

かつて彼女が住んだ京都の雅な空気のせいかも知れない。



そして、最後にと、メニューを見ると“おいらん鰈”というのが目にとまった。

とりあえず注文し、その名の由来を推測しあった。


「泳ぐ姿が花魁の外八文字の歩き方に似てるんじゃない?」


「イヤイヤ、頭に櫛(くし)笄(こうがい)簪(かんざし)のようなものが

生えているに違ぇネエ!」


「花魁道中で新造や禿(かむろ)を従えるように他のカレイを引き連れて泳ぐのかも?」

「花魁が最初に釣り上げたサカナじゃネエか!」


酔いにまかせて、お互い好き勝手なことを言っている。

(さすがに、花魁に詳しい)


そして出てきた一匹のカレイは別段変わったところはない。

強いていえば宗八鰈などに比べるとやや奇麗な色模様である。

この“あでやかさ”がその名の由来なのだろうか。

 

乗馬のレッスンで疲れているのだろう、

デザートの<白玉ぜんざい>を、

小さなスプーンで私の口に運ぶ大きな目がいつになく赤い。


食事は早目に切り上げ“花水樹”をあとにする。





今日も素晴らしい時間を有難う。




御存じの方も多いと思いますが機会があれば“花魁”の語源を

書いてみま〜す。これは面白いと思いますヨ!?

※注1 イロッペー→ヘブライ語で“色っぽい”という意味。usodesuyo