不気味な盆踊り


盆踊りの会場に近ずいてきたが、お囃子の音が聞こえない。

「まだ少し早いか、まあいい、夜店でもひやかそうか」


会場に入ると異様な光景が目に飛び込んできた。


「なんだこれは!」

盆踊りは確かに始まっていた、

しかし、音がしないのだ、鐘も太鼓も唄も無い、

だが踊り手は手振りよろしく踊っている。

聞こえるのは僅かに足が地面を踏みしめる音だけ。


よく見ると皆ヘッドホンを付けている。


何事かと町内会の役員に問えば、

会場の周りの家から「うるさい」と役所にクレームが入ったというのだ。

子供たちも楽しみにしているであろう地域の伝統文化、

もう少し大袈裟?に言わせてもらえば日本の伝統文化、夏の風物詩だ。

この情緒を理解しないアホなクレーマーの声に、馬鹿な役人が呼応する。




「地域住民から苦情が寄せられましたので、適切に対処しました」

本人は立派に職責を全うしたと思っている。


並みの良識を持った役人であれば、

「子供たちをはじめ、多くの皆さんが楽しみにしている盆踊りです、

深夜にまで及ぶことはありませんので、

寛容の心でご協力をお願いできませんでしょうか?

或いは町内会の皆さんと話し合っていただけないでしょうか?」

ぐらいのことは言うだろう。


私が町内会の役員なら、

「年に数度、学校や公園では運動会や盆踊りが催されるものです、

それを我慢できないのなら静かな場所に引っ越されたらいかがでしょう?」



運動会の子供達の楽しそうな声、

公園ではしゃぐ子供たちの声や、盆踊りの音がしない町など、不気味である。


我が身のことしか頭にない気違いじみたクレーマーと、

考えることをしない役人が増え続けたら、

江戸の三大祭りも、全員ヘッドホンを付け、お囃子も、掛け声もない、

“サイレント神輿”なんてのが登場するかも知れない。